下痢

下痢といっても様々な原因があります。大きく分けて食餌、炎症、感染症、消化管以外の疾患、腫瘍、薬物、毒物などがあります。その中でも比較的多くみられるものを解説させていただきたいと思います。

 

食事によるもの

急激な食事変更

過食

食物不耐性:非免疫学的メカニズム。食物アレルギーではないもの。

食物アレルギー免疫学的メカニズム。皮膚型と消化器型に分類される。

上記の食物不耐性と食物アレルギーの二つを合わせて食物有害反応と呼ぶ。

 

 炎症によるもの

急性腸炎:腸に炎症を引き起こす疾患群の総称なので原因もさまざまであり具体的な原因を示す病名ではない。腸に炎症を生じた結果、下痢、時に嘔吐を伴い、食欲不振、腹痛、粘血便などがみられる。

慢性腸症:対症療法に抵抗性または再発性の慢性(3週間以上)の消化器症状を呈し、血液検査や画像検査で原因の特定に至らない消化器疾患と定義される。以下のものがあげられるが猫では抗菌薬反応性腸症の存在は明確にされていない。しかし原因不明の下痢の猫の中には抗菌薬治療に反応を示す症例があるのも事実である。よって試験的治療をすることも視野にいれておく必要がある。

 

食事反応性腸症:食物アレルギーのような免疫学的機序と食物不耐性のような非免疫学的機序の両方を含む。慢性腸症のうち、食事の変更のみで症状が改善する症候群のことである。

 犬、猫とも大腸性下痢が多く、嘔吐、下痢、体重減少が見られるが症状は比較的軽度。試験的食事療法として新奇蛋白食や加水分解食を用いて6週間行うが多くは2週間以内で改善する。これに反応したら数週間後に元の食事に戻せる場合もある。食事療法に反応しない場合は他の慢性腸症を考慮する。

抗菌薬反応性腸症:抗菌薬療法に反応する慢性的な消化器症状。特発性と2次性に分けられる。2次性は小腸の閉塞や運動低下、膵外分泌不全などの基礎疾患により起こる。一方、特発性の病態は明らかではないが、腸粘膜の透過性異常、IgA欠損、CD4T細胞の増加、特定のサイトカインの発現亢進などが報告されている。

 慢性の小腸性下痢が多く、しばしば体重減少も認められる。膵外分泌不全やイレウスを鑑別する。食事療法に反応しない場合、抗菌薬療法を行って反応を観察する。抗菌薬療法は2週間で判断するが比較的早期に改善することが多い。特発性の場合は長期的な(生涯にわたる)投薬治療が必要になることが多い。2次性の場合はその原因疾患によって予後が異なる。

炎症性腸疾患(Inflammatory  bowel disease:IBD)小腸または大腸の粘膜固有層における炎症細胞の浸潤を特徴とする原因不明の慢性腸障害を起こす症候群のこと。遺伝的素因、腸管免疫機構の異常、腸上皮バリア機構の破綻、特異的な腸内細菌や食物抗原の暴露など多様な要因が関与していると考えられている。最も多いのはリンパ球形質細胞性腸炎で猫ではそれらに加えリンパ球性腸炎も認められる。

この疾患の定義としては以下のことがあげられる。

1)慢性的に継続又は再発する嘔吐や下痢の消化器症状を示すこと。

2)腸管粘膜に炎症があること。

3)炎症の原因が特定されないこと。

4)抗菌薬、食事、駆虫剤などの療法では反応がにぶいこと。

5)抗炎症薬または免疫抑制剤に対して明らかに反応すること。

蛋白漏出性腸症があるときは低アルブミン血症が認められる。CRPの上昇が認められることがある。エコー検査では腸管壁の変化(肥厚、条線、波状)が検出されることが多い。試験的治療として低アレルギー食の給与により食物アレルギーや不耐性の可能性を除外する。さらに抗菌薬投与により抗菌薬反応性腸症を除外する。これらの治療に反応が明らかでなく抗炎症薬や免疫抑制剤が有効であればIBDと診断する。

 

腸リンパ管拡張症(犬):腸粘膜、粘膜下織、腸間膜のリンパ管の異常な拡張を呈した病態であり、犬の蛋白喪失性腸炎の主な原因である。原発性と続発性があり、原発性は先天性のリンパ管の形成不全、リンパ管の炎症によるリンパ液還流障害、続発性はIBDや腫瘍によるリンパ管の閉塞やリンパ節腫大などが関与すると考えられている。腸および腸間膜のリンパ管圧が上昇して拡張し、腸管腔内に蛋白、脂質などを含んだリンパ液が漏出する。

主な症状は下痢、削痩、腹水貯留であるが、消化器症状がない場合もある。

多くは脂肪制限食やステロイドに反応するが、完治しないことも多い。治療の目的は、腸管への蛋白の漏出を防ぎ、浮腫や腹水を軽減しQOLを維持することである。

炎症性結直腸ポリープ:国内のミニチュアダックスフントに好発し、中年齢の雄に多く見られる。腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープに分けられる。

症状としては血便、軟便、下痢、しぶり、時に脱肛がみられる。免疫抑制療法への反応性から、炎症性腸疾患の一種と考えられている。ポリープのサイズが小さいものは内科療法、大きなものは外科的治療が望ましいと言われている。

 

感染によるもの

寄生虫

回虫:六ヶ月齢までの子犬、子猫の感染が多い。環境中の虫卵の経口摂取により犬、猫、人に感染する。感染ルートは母犬から子犬への胎盤感染である。授乳中の乳汁感染もあり、とくに猫では乳汁感染が最も一般的な感染である。感染後、肝臓、肺を経て消化管壁もしくは全身組織へ移行する。子犬、子猫では生後4週間以内に虫卵排泄がはじまり、6ヶ月齢まで持続する。回虫卵は環境抵抗性が強く、長期間生存可能である。成犬、成猫の回虫検出例は無症状のことが多いが妊娠出産時の感染源になる。また子犬、子猫の場合は発育不良、腹部膨満、間欠性下痢、嘔吐などを示すことがあり、重度の感染例で、胃壁や腸壁の穿孔、腸重積、腸閉塞がみられることがある。

糞便検査は一回では検出できないことが多いので繰り返し行う必要がある。また診断的治療(試験的駆虫)を行い、虫体排泄を評価することもあり、この場合も複数回実施してはじめて除外診断ができると考える。

鞭虫:犬で盲腸に感染する。猫では非常にまれである。虫卵の経口摂取による感染後、虫卵は小腸で孵化する。幼虫が小腸粘膜内に約1週間潜在した後、若い成虫となり大腸(盲腸~結腸)へ移動し、頭部が盲腸粘膜内に刺さった状態で栄養を吸収する。感染犬は慢性的な軟便~重度の出血性下痢まで、さまざまな大腸性下痢を起こす。盲腸結腸重積を発症することがある。検査は回虫と同じく繰り返し行う必要がある。

鉤虫:犬の感染ルートは主に虫卵に汚染された土壌からの感染、母犬から子犬への垂直感染(胎盤、乳汁感染)である。猫では犬のような垂直感染はなく経口摂取または経皮感染(穿孔感染)による。経皮感染では幼虫が気道や肺を移行して腸管に達する。子犬は腹痛、食欲不振、血便、衰弱、黒色タール便、貧血などが見られる。

瓜実条虫:虫卵内の幼虫をノミの幼虫が食べ、ノミと供に体内で成長し潜んでいる。このノミを犬、猫が摂取すると感染する。寄生部位は小腸壁であり大量感染では粘膜が出血し出血性腸炎を起こす。感染の予防にはノミの駆除が重要である。

マンソン裂頭条虫:市街地ではまれ、第一中間宿主であるケンミジンコを摂取したトカゲ、カエル、ヘビが第二中間宿主となるので田園地帯に発生する。第二中間宿主を捕食した犬、猫、他の肉食動物が感染する。慢性下痢、消化障害から栄養不良になる。

ジアルジア:感染経路は経口感染であり、多頭飼育の子犬や子猫で感染率が高い。犬、猫に寄生するジアルジアの一部(A~Hの8種類のうちAとB)には人畜共通のものがある。宿主が外界のシストを経口摂取すると小腸で脱嚢して栄養型虫体(トロフォゾイト)になり、粘膜に付着して2分裂を繰り返し増殖する。その後、これらはシストとなり糞便中に排泄され新たな感染源となる。殆どが不顕性感染であるが、宿主が低栄養だったり免疫能低下状態である場合に発症する。栄養型虫体は腸粘膜の上皮細胞に付着することで細胞を傷害し炎症を起こすことで持続的ないし間歇的慢性の下痢、吸収不全を起こす。

コクシジウム:感染経路としては糞便中に排泄された未熟オーシストが環境中で成熟オーシストとなったものが経口摂取されるのが一般的であるが、成熟オーシストを摂取したネズミを捕食した場合もある。1歳以下の多頭飼育された子犬や子猫の感染率が高い。虫体(スポロゾイト)が宿主細胞に進入、増殖、遊出を繰り返すことで細胞の破壊が生じ、炎症が起こる。不顕性感染が多いが、急性や慢性の下痢で粘液や血液の混入がみられることがある。

トリコモナス多頭飼育の子犬、子猫で感染率が高い。感染は糞便の直接的な経口摂取によって起こる。小腸下部から大腸に寄生し2分裂により増殖する。腸粘膜上皮への付着や細胞外に放出する因子(プロテアーゼ)によって粘膜細胞に障害を起こす。猫に対して病原性を示すことがあり粘血便を示したり食欲減少や嘔吐、体重減少がみられることがある。犬に対しての病原性は不明である。

細菌 

クロストリジウムは健常な犬や猫の腸内細菌叢を構成している細菌である。本菌の芽胞形成時に産生される毒素により腸上皮が傷害されることによって引き起こされる。急性で出血性、粘液性の大腸性下痢を起こすことが多いが慢性の大腸性下痢でもみられることがある。対症療法や抗菌剤による治療を行う。

カンピロバクターはほとんどの種で病原性がないと言われているが、時にカンピロバクターjejuniという種が腸炎を引き起こすと考えられている。ただこの種も健常の動物にもみられるため診断するのは難しい。本菌が腸上皮に進入し、毒素様物質を産生すると腸粘膜が傷害される。症状は急性の大腸性下痢(粘液便、血便)が多いが、ときに慢性化することもある。対症療法や抗菌剤による治療を行う。人畜共通感染症であるため、保菌動物の糞便の取り扱いには注意する。

 ウイルス

パルボウイルスは特定の種間で感染し、細胞分裂が盛んな腸管、骨髄やリンパ系組織に感染する。100年以上も前に猫汎白血球減少症(FP)として発見された。その後犬のパルボウイルス(CPV-1)が犬の原因ウイルスとして発見された。さらに重度な病原性をもつCPV-2が発見されその後、変異によりCPV-2aとCPV-2b、CPV-3cなどが出現した。日本ではCPV-2bが主流と言われているが猫にも感染する。ただ猫の場合、発病せず無症候性キャリアーになる。犬パルボウイルス感染症の一般症状は、急性的な嘔吐、下痢、元気消失、発熱である。若いほど重篤になり24時間以内に死亡するケースもある。成犬では子犬ほど重度な症状を示すケースは少ない。ワクチン未接種の場合はパルボウイルス血症は1-5日続き、小腸粘膜、リンパ節、胸腺、骨髄に運ばれて増殖するので、この時期の下痢便に多量のウイルスが含まれる。

この排泄される期間は通常感染後3-10日までだが、症状消失後3-4週間まで排泄されることがあるので、回復した犬を他の犬と接触させることは危険である。

猫汎白血球減少症(FP)は伝播力が強く、特にワクチン未接種の子猫では有病率と致死率が高い。このウイルスは環境中に長く留まり、二次感染を起こす。一般的な症状は発熱、嘔吐、沈うつ、脱水、下痢などである。白血球の減少が認められる。後期には反動で白血球増多が、回復期には非再生性貧血がみられることもある。治療としては体液、電解質、酸塩基平衡の補正が中心となる。また免疫能が低下した状態であるため、敗血症が生じるリスクも考慮して広域スペクトラムの抗菌剤を用いる。発症後、最初の一週間を耐えた症例は回復に向かうが、回復には数週間を要する。

 

消化管以外の疾患

膵炎急性と慢性に分類される。犬の急性膵炎の場合は膵臓内の酵素前駆体が活性化されて膵臓の自己消化と炎症反応が起こる。膵炎は犬において中高齢、不妊雌が多いとされる。肥満は膵炎の危険因子とされている。肥満が膵炎に結びつく要素は高脂血症(高トリグリセリド血症)だといわれている。

また特発性炎症性腸疾患(IBD)の犬や猫では膵炎を併発することが多い。さらに、腸内異物、胃拡張捻転症候群、腹膜炎の患者でも特発性膵炎がしばしば認められる。

膵外分泌不全

膵臓腺房細胞からの膵酵素の分泌が低下し、消化不良を起こす疾患である。

犬の場合は膵腺房細胞の萎縮や破壊により、消化酵素の分泌能力が90%以上失われることにより生じる。ミニチュア・シュナウザーや猫では慢性膵炎に関連した膵腺房細胞破壊が主な原因となる。食欲亢進を伴う体重減少や削痩および被毛租剛がみられる。脂肪を含む下痢を呈することもある。

血清トリプシン様免疫活性(TLI)は水外分泌不全に対する感度と特異度から最も有用な検査である。糞便染色検査で糞便中の未消化物(脂肪、炭水化物など)を検出する。消化酵素の経口補充のみでQOLを維持できる場合が殆どである。つまり発症した膵臓自体を治療することは不可能なので膵酵素の補充を行って症状の改善を目指す。この補給は基本的に一生続けなければならない。また食事は低脂肪のバランスの取れた治療食が好ましい。

肝胆道系疾患

腎疾患 

副腎皮質機能低下症(犬)

甲状腺機能亢進症(猫)   

 

機能性イレウス/機械性閉鎖

腫瘍:腫瘍にはさまざまな種類がありますが主なものとして以下にあげておきます。

リンパ腫:(犬の小腸、大腸のリンパ腫)

大細胞性と小細胞性の腸リンパ腫が存在し、大細胞性腸リンパ腫は基本的に予後不良である。消化管において腫瘍化したリンパ球は消化管粘膜において増殖、浸潤し、粘膜傷害、炎症、吸収不良などを引き起こす。症状は下痢、嘔吐、食欲不振、体重減少などである。治療としては大細胞性で多剤併用化学療法、小細胞性ではプレドニゾロン+クロラムブシルである。予後は大細胞性では不良で生存期間中央値は13~77日であるという報告がある。小細胞性では大細胞性に比べて生存期間は長い。

(猫の胃腸のリンパ腫)

高齢での発症が多い。猫の消化管に発生する腫瘍の中で最も多く、小腸での

発生が多い。症状としては慢性嘔吐、下痢などの消化器症状がみられる。食欲不振、体重減少などもみられることがある。血液生化学検査では低アルブミン血症が認められることがある。組織型(小細胞性、大細胞性など)によって治療が異なる。小細胞性リンパ腫の場合、生存期間中央値は2-3年。大細胞性リンパ腫の場合の予後は悪い。

 腺癌(大腸、小腸):(犬)発症は中年期~老齢に多く、病態や原因は殆どわかっていない。小腸腺癌の症状は嘔吐、食欲不振などで、進行すると体重減少や小腸閉鎖を起こすことがある。大腸腺癌は犬の大腸腫瘍の中で最も発生が多く、症状は鮮血便、粘液便、大腸性下痢で、進行すると食欲低下、体重減少、嘔吐などを呈する。外科的に完全に摘出できれば根治する可能性があるが、できなければ1年以内に死に至ることが多い。診断時にリンパ節転移や腹膜播種などを起こしている場合が多いので根治は難しい。

(猫)大腸腺癌は猫の大腸腫瘍の中で最も発生が多く、小腸腺癌は小腸腫瘍の中で2番目に発生が多い。発生は10歳以上が多く、原因はわかっていない。小腸腺癌や大腸腺癌の症状は犬の場合とほぼ同様である。治療についても犬と同じで外科手術が基本であるが完全に摘出できなければ1年以内に死に至るケースが多い。

肥満細胞腫:犬、猫ともまれであるが高齢猫のほうが発生が多い。犬では予後が悪いが、猫では予後はさまざまである。胃における発生は少なく、小腸に多い。症状は元気消失、食欲不振、体重減少、嘔吐、下痢などである。治療は外科的切除が第一選択になる。内科的治療としてグルココルチコイドの投与、化学療法、分子標的治療がある。

平滑筋肉腫(消化管):犬においてリンパ腫や腺癌に次いで発生のみられる腫瘍である。高齢犬に多く、発生部位は胃や小腸が多い。症状としては上部消化管では嘔吐、小腸では体重減少やメレナ(タール便)、大腸では血便やしぶりを引き起こすことが多い。通過障害、閉鎖があるときは食欲不振、体重減少、嘔吐がみられる。身体検査で約2割~5割が腹腔内腫瘤が触知され、リンパ節の腫脹もみられる。また血液検査で低血糖(インスリン様成長因子の産生による)や貧血、脱水、白血球増多症、低蛋白血症、ALPの上昇などがみられることがある。治療の第一選択は外科的切除である。局所浸潤や遠位転移がみられない場合には長期生存が期待できるが腹膜炎、敗血症などによる周術期の死亡例も少なからずあるといわれている。

 消化管質腫瘍:消化管粘膜下腫瘍で無症状で発見されるケースがある。完全切除により根治可能な症例が存在するが、術後再発例や腹腔内に多発する例、転移する例なども存在する。腫瘍が大きくなると食欲不振や嘔吐、下痢などの消化器症状が発現する。重篤な場合、脱水、腹部膨満、腹腔内腫瘤、腹水、可視粘膜の貧血などが認められることがある。

薬物、毒物:抗炎症薬、抗菌薬、ジゴキシン、抗がん剤など。

その他:敗血症(子宮蓄膿症、細菌性腹膜炎など)、繊維反応性大腸性下痢。