共通感染症(動物由来感染症)

(人獣)共通感染症(ズーノーシス:zoonoses)は、「ヒトと脊椎動物の間を自然に伝播しう るすべての病気又は感染症」で寄生虫症と細菌性食中毒も含む」と定義されています。今回は伴侶動物である犬、猫に絞って各感染症について解説していきたいと思います。なお寄生虫関連については下痢の項目と重複しますが人への感染を意識して述べさせていただきます。

 

回虫症(トキソカラ症)

犬・猫回虫症は、ペット(犬・猫)に寄生する回虫というおなかの虫によって引き起こされます。犬・猫では感染した母犬(猫)と子犬(猫)との間での母子感染や糞便中に含まれる虫卵が原因で感染します人に犬や猫の回虫が誤って侵入した場合、成虫にまで発育することはできず幼虫のまま体内を移行して内臓や眼などに侵入して、幼虫移行症とよばれるさまざまな障害を引き起こします。

 犬回虫と猫回虫の生活史は若干異なり,猫回虫は猫を終宿主として人回虫類似の生活環をもちますが,犬回虫は犬を終宿主とはするものの,宿主側の年齢抵抗性があり,しかも胎盤を通して胎児への感染が起こるので,幼犬,特に6カ月未満の犬ではそのほとんどが犬回虫の成虫をもっているといわれています。

 その終宿主犬への感染は全国的に見られ,わが国でも全国どこでも犬回虫感染が見られ,調査結果では感染率2.1%(成犬)から98%(幼犬)と報告されています。一方,猫における猫回虫の感染も全国的に見られその感染率は犬での犬回虫感染率とあまり変らない(8.6~81.3%)といわれています。

 

(犬回虫)

1)胎内で感染した場合:成犬は感染しても幼虫は活動しませんが、妊娠すると運動性が活性化して胎盤を通して胎子に感染します。幼虫は胎子の肝臓、肺、咽頭、小腸の順で移行し虫体は急速に成長し子犬の3-4週齢で虫卵を排泄するようになります。

2)出産直後に感染した場合:幼虫は乳汁から排泄されますので、これを摂取すると感染します。この場合子犬の消化管で成虫まで発育します。

3)出産子犬から母犬に感染した場合:新生子犬が排泄した未熟虫体を母犬が経口摂取して感染する場合があります。虫体は母犬の消化管内で成長し、この母犬が犬回虫卵を排泄します。

4)幼犬(2-3ヶ月未満)が幼虫包蔵卵を経口的に摂取して感染した場合:十二指腸で孵化→腸壁へ穿入→リンパ管、血管→肝臓→肺→咽頭→感染2週間で小腸に到達し、3-4週間で産卵を開始します。

5)3ヶ月齢以上の犬が幼虫包蔵卵を経口的に摂取して感染した場合

全身型移行を示します。幼虫が成長せずにリンパ、血流→肝→肺→毛細血管→全身へ移行し、感染8日後には全身の臓器、組織内で被嚢して発育を停止します。よって糞便からの回虫卵の排泄はありませんが、妊娠した場合に被嚢幼虫の運動が活性化して胎盤、乳汁から幼虫が排泄されます。

 

(全身型移行する動物)げっ歯類、鶏、牛、など。成虫までは成長しないので、虫卵の排泄はありません。寄生している臓器、組織が犬に食べられれば幼虫はそのまま成長して、犬の消化管内で成虫になります。一部は被嚢して待機します。

 

(猫回虫)

猫の体内に侵入したネコ回虫の卵は、小腸内で孵化して壁を突き破り、血管内を移動しながら肺に到達します。そこで幼虫の第三形態まで成長すると、気管支や食道に移動し、宿主に飲み込まれることで再び腸管内に舞い戻ってきます。腸管内でようやく成虫となった猫回虫は、宿主から栄養を盗み食いしながら、1日10万個近い卵を産むようになります。これらの卵は猫の排泄物と共に外界に排出され、再び他の宿主に取り込まれるのを待ちます。

 

以下の点で犬回虫とは異なります。

○授乳期の子猫は乳汁感染が主な感染経路になる。

○ねずみ、ミミズ、ゴキブリなどが主な待機宿主となる。

○幼虫包蔵卵を摂取すると成猫でも経気管移行が認められ、成虫にまで

 発育する。

 

待機宿主:寄生虫に感染して、終宿主に食べられるまで内臓、筋肉などで子虫のまま、あるいは被嚢(殻をかぶる)して待機する段階である。

幼虫包蔵卵:感染時に虫卵内で第二期幼虫まで発育しているもの。

 

(人への感染)

  イヌ回虫またはネコ回虫の幼虫が人間に感染して引き起こす病気が「トキソカラ症」です。

(感染経路)

幼虫包蔵卵の摂取(砂場での、または犬、猫の被毛の付着した、あるいは排泄した糞便中の虫卵を手指を介して経口感染。もしくはペットとの口うつし、キスなどの行為により経口感染)。

〇犬回虫では鶏や牛の肝臓、筋肉の生食などの食品媒介性の感染が多いという報告もある。

(人の症状)

人間は、その回虫にとっては本来の宿主ではないので、感染後、成長することはありませんが、体の組織中に殻をつくって、数カ月生存しつづけます。以下の4型にわけられます。

1)内臓移行型:発熱、肝炎様症状、肝障害、皮疹。

2)眼移行型:眼内炎型、後極部肉芽腫方、周辺部腫瘤型などがある。

3)中枢神経移行型:てんかん様発作を起こす。

4)不顕性感染型:症状はみられないが、血清中の抗体が陽性で軽度

 のアレルギー症状を伴う。

(予防法)

〇犬、猫の定期的な検査と駆虫をすること。

〇糞をすぐ片付けてまわりもきれいにし手指の洗浄を必ず行うこと。

〇犬、猫と口どおしの接触はしないこと(グルーミングをしていることなどもある)。

〇生レバーや生肉などは食べないこと。

 

 

瓜実(ウリザネ)条虫

瓜実条虫は犬、猫にみられる寄生虫で世界に広く分布しています。条虫本体から切り離された受胎片節という白色米粒状の体節に六鉤幼虫が含まれています。この幼虫がノミの幼虫に食べられ、ノミが幼虫から蛹、そして成虫になるまで胎内に潜んでいます。このノミを犬や猫が摂取することで感染します。

寄生部位は小腸部下位で小腸壁に吸着し、約3週間で成虫になります。大量感染例では出血性腸炎を起こします。

(人への感染)

1歳前後の小児が多い。つまり小児は畳、じゅうたん、床を這うので、犬や猫からおちた不活発な、または死んだノミを口に運ぶ機会が多いと考えられる。感染が軽度の場合は無症状に経過する。多数感染では食欲不振、腹痛、神経性の異常緊張、倦怠感、嘔吐、下痢、慢性腸炎などが報告されている。

(予防法)

〇感染源である犬、猫の便に注意し、体内に寄生虫のいない状態を

  保つ(定期的な検査、駆虫など)。

〇中間宿主であるノミやシラミの駆除をして身体を清潔に保つ。

〇子供にはペットの扱い方を教えるとともに、遊んだ後の手洗い

 習慣を身につけさせる。

 

ジアルジア症

 ジアルジア原虫(ランブル鞭毛虫)は遺伝子型でAssemblage AからHの8つに分類され、AとBは人にも感染します(犬や猫からも検出されます)。その生活環は栄養型と嚢子(シスト)の2形態からなります。

 宿主が外界のシストを経口摂取しますと、小腸で脱嚢して栄養型になり、粘膜に付着したり遊離しながら2分裂を繰り返します。その後栄養型はシストとなり糞便中に排泄されます。栄養型は外界で死滅しますが、シストは生き残り感染源になります。

 ほとんどが不顕性感染ですが時に急性または慢性の下痢をひき起こすことがあります。つまり宿主が低栄養や免疫能低下の状態である場合に発症する確率が高いと言われています。

(人への感染)

 主にシストに汚染された食品や水などを摂取することで感染する。

シストに汚染されたプールや河川、湖沼での水泳、水浴により感染することもある。ペットの糞便中のシストを経口摂取しても感染する可能性はあるので注意が必要である。

(予防法)

〇感染している動物(犬、猫)に触れないようにし、触れたら 手をよく洗う。

〇便で汚染されている可能性のある河川や湖沼等での水泳、水浴あるいは飲水を避ける。

〇衛生状態の悪い地域では安全な飲料水の確保に努め、生の食品の摂食を避ける。

 

ノミ感染症

ノミは世界的に分布し、日本においても飼育動物、野生動物のいずれにも高頻度で発生が認められています。以前は人に寄生するノミはヒトノミでしたが、現在の日本では人体寄生のノミは、ほとんどがペットに由来するノミになっています。最近は、家屋の保温性の向上に伴い、冬期にも成虫が認められます。

 感染動物との接触により成虫の寄生を受けます。あるいはノミの生息地に侵入することにより寄生が起きます。ノミに刺咬(さされる)を受けた部分には、痒みをともなう皮膚炎を生じます。また、ノミが吸血する際に動物体内に注入する物質が抗原となって、アレルギー性の皮膚炎が発生することがあります。症状と寄生個数との間には相関関係はなく、ごく少数の個体のノミの寄生を受けただけでも激しい症状を示す例があります。

(人への感染)

感染動物との接触によりノミ成虫の寄生を受ける。とくにペットの犬、猫からの感染が多い。一時的に寄生して吸血を行うことは多い。これにより、その部位には硬い丘疹が生じ、激しい痒みをともなう皮膚炎が生じる。この症状は長期間続くことが多い。

(予防法)

〇感染動物との接触を避け、ノミの生息地に侵入しないようにする。

〇飼っている犬、猫にノミ駆除剤を定期的に使用してノミの寄生予防を徹底する。

 

マダニ感染症

 日本においても多種のマダニが生息していますが、都市部で飼育されている犬にはツリガネチマダニの発生が多いといわれています。マダニ類には病原体を伝播するものが多く、ピロプラズマ原虫のほか、人の疾患としては、ダニ媒介性脳炎ウイルス群や紅斑熱群リケッチア、野兎病およびライム病の病原体などを媒介します。

(人への感染)

 感染動物との接触、あるいはマダニの生息地へ侵入することにより感染をうける。無症状で経過することも多いが、疣ができたと考えて見過ごすこともある。しかし、ときに吸着部位に刺激が発生する。

 無症状で経過していても、マダニは多種の病原体を媒介するため、ただちに駆除すべきである。

(予防法)

〇感染動物との接触を避け、マダニの生息地への侵入を避ける。

〇犬にはマダニ駆除剤を定期的に使用して寄生予防を徹底する。

 

疥癬

世界中に発生が認められますが、日本では特に犬や猫に穿孔ヒゼンダニの寄生を受けることがあります。穿孔ヒゼンダニは犬、猫、ブタなどに寄生し、全身にフケや皮膚の肥厚、脱毛、その他の皮膚病変を形成します。犬に寄生するのは犬穿孔ヒゼンダニ、猫に寄生するのは猫小穿孔ヒゼンダニです。

感染経路は感染動物との接触によります。

(人への感染)

感染動物との接触により感染します。主に手指や腋窩部、外陰部に激しい痒みと伴う皮膚炎を発症する。穿孔ヒゼンダニは人に感染すると一時的な寄生にとどまり、増殖することは少ないといわれている。

(予防法)

 〇感染した犬、猫を治療し、なるべく感染動物との接触を避ける。

 

レプトスピラ病

世界的に分布し、わが国でも北海道から九州沖縄まで全国的に発生があります。多くの動物に感染し、腎臓の尿細管に生息しますので、感染動物の尿中から出てきます。本菌によって汚染された水たまりや土壌から、犬は経皮および創傷感染します。血中に入ると菌血症を起こしますので、ワクチンを接種を受けていた犬では治癒しますが、そうでない場合は血中や腎尿細管上皮、肝臓で増殖して腎臓や肝臓を傷害して死亡するか、慢性化した場合には尿中に長期間菌を排出して感染源となります。

(人への感染)

レプトスピラを含む感染動物尿汚染水、土壌から経口、経皮的に感染。

感染すると発熱と頭痛、腰痛、全身倦怠感、粘膜の充血などが起こる。その後、症状が進み、全身器官、組織から出血があり、衰弱と激しい貧血がみられる。

(予防法)

〇感染源になりえる犬へのワクチン接種を徹底する。

〇湖沼での水泳、カヌーなどの水遊びに注意する。

 

トキソプラズマ症

本症は世界中に広く分布し、現在、日本における人の寄生虫症の中でも重要なものの一つです。この病原体は胞子虫類に属する原虫の一種で、オーシスト、急増虫体(タキゾイト)、シストの生活環を持ちます。

感染経路はオーシストの経口感染。シストによる経口感染。急増虫体による胎盤感染などです。症状は発熱、呼吸異常、リンパ節の腫脹、紫斑(ブタ)などです。

(人への感染)

オーシストの経口感染。シストによる経口感染。急増虫体による胎盤感染。まれに急増虫体による粘膜感染、創傷感染。

先天性トキソプラズマ症と後天性トキソプラズマ症がありそれぞれ特有の症状を示す。

(予防法)

〇飼い猫の定期的な検査と感染していれば治療を実施する。糞便の扱いに注意し手指の洗浄を徹底する。

〇主に加熱不十分な食肉の摂取防止。

 

皮膚糸状菌症

皮膚糸状菌症は人はじめ各種動物に広くみられる疾患で、皮膚の角層、被毛、爪鈎などケラチン化組織に寄生する糸状菌群です。

1)土壌中に存在する菌が体表に付着して感染。

2)動物由来の感染被毛などが感染源になり感染。

3)動物間の直接的または間接的接触で感染。

症状は、フケ、紅斑、被毛の断裂、脱毛、稀毛を呈するものから毛包炎、びらん、時には肉芽腫を呈するものもあります。

(人への感染)

感染経路としては以下のものがある。

1)土壌菌にある菌が体表に付着して感染する。

2)感染動物から直接ないし間接的に感染する。散乱したフケや毛に寄生した菌に接触する。

3)タオル、マット、スリッパなど共同利用するもので感染する。

(予防法)

〇感染動物や保菌状態にある動物との接触を回避する。生活環境を清潔に保持する。

〇感染動物の治療をし完全に菌を除去する。

〇公共の場での感染の機会に注意する。