腎臓病について

腎臓病とはどのような病気でしょうか?

 腎臓病と一口に言ってもさまざまなものがありますが一般的に問題となるのは尿毒症といわれる危険な状態になり得るものだと思われます。

 わかりやすく言えば血液中の老廃物をろ過したり、身体に必要な水分を再吸収できなくなってくることで血液中に毒素(窒素化合物など)がたまり嘔吐、下痢、脱水などを起こして危険な状態になり最後は死にいたる病気です。

 

近年、犬、猫とともに死因の上位を占め、年々発症するリスクが高まっています。

 

 原因は様々考えられていますが、まだ本当に詳しいところはよくわかっていない病気の一つです。腎臓に障害を与える様々な病気などが長年もしくは急激に腎臓の組織を壊し、ある一定のダメージを与えると症状が出ると考えられています。

 長年徐々に進行する場合は慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)、急激なものは急性腎障害(Acute Kidney Injury:AKI)と呼ばれています。

 これらはあくまで定義上の病名であり疾患の原因を示すものではありません。

 

また、よく聞かれる腎不全(Renal Failure:RF)という病名は腎臓の機能低下により尿毒症症状を示すものであり血液検査で異常が出ても症状がない場合はあてはまりません。さらに慢性的に進行してきたものは慢性腎不全(Chronic Renal Failure:CRF)、急性に起こったものは急性腎不全(Acute Renal Failure:ARF)と呼ばれます。

 

 ちなみに高窒素血症(Azotemia)というのは糸球体ろ過量の低下によってBUNやCreが上昇していることを言います。


急性腎障害(AKI)

急性腎障害は虚血(ショック、脱水、外傷、心臓病などで血液がまわらなくなること)、毒性物質(ユリ科、レーズン、ぶどう、不凍液など)、感染(腎盂腎炎、レプトスピラ、FIPなど)、尿路閉鎖(尿石症など)などにより腎実質部の障害が突然起きるもので短期間に腎臓の機能が失われます。この場合は高窒素血症または尿濃縮能の低下によって診断されます。そしてときには急性腎不全へと移行していきます。

 

 ちょっと専門的になりますが獣医領域の腎臓病について検討、取り決めをする世界的機関でIRIS(International Renal Interest Society)というのがあります。そこでAKIのグレードについて提唱をしています。グレードがあがるほど重症ということになります。参考のためにあげておきます。

 

         血清クレアチニン値(mg/dl)                           詳細

グレード1        <1.6                                 非高窒素血症

                            病歴、問診、各種検査からAKIと診断される

                            48時間以内に0.3mg/dl異常のCREの上昇

                            6時間以上にわたる欠尿、無尿

 

グレード2         1.7-2.5                              軽度 AKI

                       高窒素血症がある

                       48時間以内に0.3mg/dl異常のCREの上昇

                         6時間以上にわたる欠尿、無尿

 

グレード3        2.6-5.0         中等度から重度のAKI

 

グレード4        5.1-10.0        重度の高窒素血症、腎不全

グレード5        >10.0

 

以上、AKIという概念は急性腎不全(ARF)をより早期に検出し、治療を行うことを目的としています。

重度のAKIつまり急性腎不全の場合には尿毒症症状(食欲不振、沈うつ、嘔吐など)の急激な発現がもっとも一般的な所見です。

 

(検査)

 診断には問診、臨床症状(尿排泄の確認や脱水状態など)、腎臓の画像検査、血液検査、尿検査などがあります。これらで腎臓病以外の病気があるかどうかも調べる必要があります。

 一般的に腎臓病は症状が出るころにはかなり病気が進んでいますが早期発見のほうが治療上も有利です。一般的に動物病院の血液検査では各グレードの基準にもなっているクレアチニン(CRE)がよく使用されていますが、これが異常値を示すときにはすでに腎臓の組織(ネフロン)の約75%以上が機能しなくなっています。それからCREは筋肉のつきぐあいによって影響を受け痩せている動物は低く出る傾向がありますので早期発見という意味では他の検査も重要になってきます。

 

 例えば血液検査であればSDMA(symmetric  dimethylarginine)は筋肉の影響を受けにくく早期に診断できるといわれています。

また尿検査では尿中蛋白クレアチニン比(UPC)はBUNやクレアチニンに比べて腎臓病を早期に発見することができます。またその数値によって腎臓のどの部分に障害があるのか推測できる場合があります。

 

(治療)

 治療目的は、悪化させている原因で特定できるもの(重度の脱水、低血圧、毒性物質、尿路閉鎖など)をできる限り排除、治療し一過性に悪化した腎機能を回復するまで異常(脱水、高カリウム血症、代謝性アシドーシスなど)を補正し、利尿を促すことです。回復するまで1-3週間かかることが多いといわれています。ただ欠尿、無尿の状態では非常に予後が悪く、腎機能の回復まで生存できないことが多いといわれています。

 

原因薬剤等の中止

 腎毒性が危惧される薬物や腎血流量に影響ある薬物の投与を中止する。

 

原因の治療

 脱水、心拍出量の低下(心不全など)、敗血症、肝不全、ショック

 閉鎖性尿路疾患

 

輸液療法 

 腎臓の血流と水分や電解質バランスを整えるために必要であり、そうすることで腎臓の機能が回復する時間ができます。また腎臓が尿をろ過する働きをあげたり尿を生成することを助ける効果も期待できます。欠尿、無尿の場合は利尿剤を使用します。

これらはあくまでその動物の状態をみながら行うことが重要です。

 

嘔吐や胃腸炎の治療

  急性腎不全では嘔吐や胃腸炎が見られることが多いため、過剰な遺産分泌の制御や胃粘膜保護、尿毒症物質による嘔吐中枢への直接刺激の抑制といった効果の薬剤を投与します。

 

 

 


慢性腎臓病(CKD)

 慢性腎臓病(CKD)は、持続的な腎障害の存在(例えば、蛋白尿)および/または持続的な糸球体ろ過量の低下と定義されます。ここでいう持続的とは3ヶ月以上をいいます。

最終的には慢性腎不全(CRF)に進行し、死に至ります。猫では慢性腎不全は常に死因の上位を占め、一般的な疾患です。

 

 また犬と猫では腎臓のつくりに違いがあるため腎臓病にも違いが認められます。ある研究では犬では糸球体疾患が50-70%を占めるといわれており、一方で猫では多くが原因不明の尿細管間質性腎炎と述べられています。

 すなわち犬の場合、ろ過する機能が落ち、身体に毒素が溜まることによってはじめて症状が現れます。そのため気付いたときには重度の尿毒症になっていることが多くみられます。猫は腎臓病になると再吸収する働きが下がって水分を失いやすくなり、血液が濃くなり毒素の数値が高くなり、早期に症状が現れます。このため水分を補ってあげることで症状を改善することが期待できます。ただどちらにしても重度にまで進行した場合は元々何が原因かを鑑別することはほぼ不可能です。

 

ここでもIRISCKDのステージを提唱しているのであげておきます。

 

         血清クレアチニン値(mg/dl)                   詳細

ステージ1                            犬 < 1.4                非尿素窒素血症

                                                                                             いくつかの腎臓の異常が認められる  

                                                 猫    <     1.6                     SDMA          <18     

 

ステージ2                犬         1.4-2.8                   軽度の高尿素窒素血症   

                       臨床症状は軽度もしくはない

                                                 猫      1.6-2.8      SDMA            18-35(犬)18-25(猫)

 

ステージ3       犬    2.8-5.0     中等度の高窒素血症

                       多くの腎外性の症状がある

                                                 猫    2.8-5.0     SDMA             36-54(犬)26-38(猫)

 

 ステージ4       犬、猫 > 5.0                   重度の高窒素血症

                       多くの腎外性の症状が常にある

                       全身状態や尿毒症の危機が上昇する

                       SDMA           >54(犬) >38(猫)

 

(検査)

 CKDの診断には腎障害またはGFR(糸球体ろ過率)の評価が必要です。腎障害とは、病理組織学的所見、蛋白尿、画像検査での異常です。GFRの評価は、BUN(血中尿素窒素)、CRE(クレアチニン)などの間接的な指標が主に用いられています。

 しかしBUNやCREはGFRが25%まで低下しないと上昇しなかったり、BUNは変動要因が多い、CREは動物の筋肉量に影響されるという欠点があります。ちなみに SDMAについての有用性は前述したとおりです。

 

 尿比重は様々な要因で変動しますが、CKDではGFRの低下と関連しています。腎臓のネフロンが減少しますと残ったネフロンの代償反応が起きGFRは上昇させますが尿細管からの再吸収を低下させ、尿比重の低下を引き起こします。ただし尿比重は食後、飲水、水和状態によって変動するため1回の測定では評価できず、異なる日に最低3回以上は検査する必要があります。

 

 蛋白尿は糸球体疾患やCKDで認められます。蛋白尿は硬化した糸球体から漏出した蛋白や尿細管から再吸収されない低分子蛋白などの結果です。糸球体疾患は腎機能の低下を示さない所期から蛋白尿を生じます。このため蛋白尿を評価することはCDKの早期発見に有効です。

 尿試験紙は尿濃度に影響されるため正確に蛋白尿を反映しません。正確に蛋白尿を評価するためには尿蛋白:クレアチニン比(UPC)を測定する必要があります。UPCが犬で 0.5、猫で0.4を超えると蛋白尿だと診断します。

 血漿リンは進行したステージ(3または4)で増加してきます。リン排泄機能が低下することにより起きます。

 

 全身性高血圧はCKDの一般的な合併症であり末梢臓器障害(蛋白尿の悪化、出現、心筋肥大、網膜症など)があるときには迅速に降圧療法を開始します。

 

 進行したCKDでは貧血、代謝性アシドーシス、低K血症(猫)といった合併症も認められるためこららも評価すべきです。

 

(治療)

 食餌療法

 CKDの治療の中心は水和状態の管理と食餌療法です。食餌療法の中心はリン制限です。CKDにより体液にたまったリンはカルシウムと結合して骨以外の組織で石灰沈着を起こし、これが腎臓で起きればろ過機能が低下します。またリンはカルシウムと連動しており副甲状腺機能亢進症を併発することでさまざまな問題が生じさらに腎臓病を悪化させる原因になります。食餌療法はCKDのステージ2から開始できますが、あまり早期のステージからだと低リン血症や高カルシウム血症を引き起こしてしまう可能性があり注意が必要です。

 蛋白制限は進行したステージ(ステージ3以上)の場合、尿毒症の軽減のために行われます。糸球体疾患では高蛋白食は蛋白尿の悪化と関連するため、ステージにかかわらず蛋白制限を行う必要があります。

 

 リン吸着剤

 これは食事中のリンを吸着し、糞便中に排出する薬剤です。食餌療法のみで血漿リン濃度が十分に抑制できない場合には、積極的にリン吸着剤を使用すべきです。

 

 アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)およびアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)

 蛋白尿の軽減にはレニン-アンジオテンシン系(RAAS)の抑制が有効で、これは糸球体高血圧だけでなく、抗酸化作用、アポトーシス、アルドステロンなどの抑制といった作用により蛋白尿を改善すると考えられています。つまりこれらは腎臓の繊維化を抑制することで慢性腎臓病の進行抑制に寄与すると考えられています。具体的にはACEIやARBがあり主にACEIが使用されてきました。しかし、最近ではARBのほうがACEIより有効だという報告もあり猫ではARBが使用されることが多くなりました。犬においては正式な認可はとれていませんがARBが犬の蛋白尿の抑制に有効だという報告が多く出てくるにいたり十分なインフォームドコンセントを行った上で使用する例が増えてきました。

 またこれらの薬剤にはCKDで問題になる全身高血圧に対する治療効果があり、降圧剤であるアムロジピンなどと併用する使い方をする場合が多いと思われます(当院でもアムロジピンを併用しております)。

 

 ただしACEIやARBにかかわらず、RAAS抑制薬には糸球体ろ過量の低下による腎機能低下を起こすケースもあるため、重度の貧血や脱水、高度な腎不全(ステージ4)の場合には注意が必要です。つまり水和状態をチェックしたりCREやカリウムを測定して有害反応がでないかどうか確認しながら使用します。残念ながら末期の腎不全に進行し貧血が著しい場合は投薬を中止しなければなりません。

 

 輸液療法

 CKDでは脱水を生じやすい状態にあり、脱水は腎血流量の低下によりさらにCKDを悪化させます。その患者の病気の状態によって適切な補液が必要になりますが、まず口から十分な水分を摂取させることが重要で、水のみ場を増やしたり、ウエットフード中心の食事に変更したりすることが有効です。しかし、進行したステージ(3後期~4)で脱水が認められる場合は、定期的な皮下補液などを実施する必要があります。

 

 その他

 食欲不振および嘔吐がある場合は積極的に胃腸保護薬、胃腸運動改善薬、そして制吐薬をもちいて、これらを改善させる必要があります。

  多価不飽和脂肪酸(ω脂肪酸)であるω3(EPA、DHA)とω6は腎不全の進行を抑制できる可能性があり最適な比率で最大限の効果を発揮すると言われています。

 


まとめ

 以上、犬と猫の腎臓病について述べてまいりましたが、かなり掘り下げて専門的になってしまいました。そこで腎臓病を語る上でこれだけは覚えておいて頂きたいという注意点のみ抜粋して以下にあげておきます。

 

腎臓病はかなり進行した段階でないと症状が出てこないので重症になりやすい病気である。

  一般的に行われる血液検査(CRE、BUN)でも腎臓の約75%以上が機能しない状態で初めて異常が見つかるほどで早期発見がこの病気の治療の鍵となるため他の検査(例えばUPCなどの尿検査)を定期的に行う必要がある。

 

犬と猫では腎臓病のなりかたが違う場合が多いので、猫よりも犬のほうが深刻で回復する可能性が低い傾向がある

 

慢性腎臓病は年齢が高くなるにしたがって進行してくるケースが多いので犬、猫ともに近年増加傾向があり注意が必要である。ある一定の年齢に達したら最低限でも血液検査を定期的に行うことがより望ましい。犬、猫ともに死亡原因の3位以内という調査結果もある。

 

○腎臓病は症状を軽減したり延命したりする治療はあるが腎臓を元の状態にもどすことは不可能なので、これ以上悪化させないように治療食やお薬などを生涯続けることが必要になる。それにも早期発見は大事でなるべく早い段階(ステージが低い)で治療を開始すると予後が良いことは言うまでもない。